何年か前に1巻だけ買って、
そのまま放置していた文庫本を、
最近また買い始めた。発売からだいぶ経っているので、
扱っている店が少なくて、
大型書店でやっと見つけた。ところが自分が買おうとしている巻だけ、
売り切れていた。先回りして買っている、
見えないライバルがいるような気がした。その巻が入荷するまで待ってもいいが、
そのときには次の巻が無くなっている気がして、
「後るれば則ち人の制する所と為る」という言葉が、
瞼の裏に浮かんでくる。そんな終わりの無い戦いに身を投じるところだったが、
他の店で売っているのを見つけて購入したので、
見えないライバルとの見えない争いは、
平和裏に終わったのだ。しかしこれで安心してはいけない。
人間は常に見えない何かと戦っているのだ。